『戦後初期日産労使関係史』書評から


吉田誠『戦後初期日産労使関係史』ミネルヴァ書房
定価7500円(+消費税)※正誤表

本書は、残念ながら一般読者を得ることができていないようだが、しかし学界においては一定の注目を集め、前著よりも多くの研究者から書評していただくとともに、労働政策研究・研修機構および読売新聞社による「第47回 労働関連図書優秀賞」(2024年)を受賞することができた。ここでは、これまで出た書評等において本書への積極的に評価された点について抜粋しておきたいと思う。 全文についてはそれぞれリンク先からお読みください。
  1. 浜口桂一郎先生(JILPT所長)
    『日本労働研究雑誌』2024年8月号(No.769)
    「70年以上も昔の話でありながら,現代日本の雇用社会のあり方にも直結するテーマであり,いわば日本型雇用システム形成秘話とでもいうべき作品となっている。」

  2. 梅崎修先生(法政大学教授)
    「受賞理由について」『日本労働研究雑誌』2024年12月号(No.773)
    「事前知識がなければ,読みにくいのではないかという予測を裏切り,本書は戦後労働史発掘と呼べるような面白さがある。戦後初期のという短い時間においても日産の労使関係は数々の変容を遂げたことが明らかにされるのだ。」
    「著者は,本書の中で日本的経営論という概念が労使のせめぎあいという過程を忘却させていたと述べている。この指摘は,他の概念枠組みにも当てはまる。言い換えれば,歴史的時間の記述(歴史研究)は忘却に抗うのである。本書がそのような優れた歴史的時間の記述を備えているのは,著者による浜賀コレクションを中心とした歴史資料の長年の読み込みがあったからと言えよう。」

  3. 山田信行先生(駒沢大学教授)
    『社会学評論』75巻3号
    「本書は、著者によるライフワークともいうべき著作であり、一次資料の丹念な読み込みと関係者への詳細な聞き取りによって書かれた歴史研究の労作・力作である。」
    「1つの企業に関する、極めて限られた時期の分析にとどまってはいても、本書は極めて現代的な意義をもつ貢献をなしえているといえよう。」

  4. 禿あや美先生(埼玉大学准教授)
    「学界展望 労働調査研究の現在:2022〜24年の業績を通じて」『日本労働研究雑誌』2025年2・3月号(No.776)
    「この本の特徴の 1つは,特定の雇用形態の労働者を除き正社員のみを対象に議論するのではなく,女性労働者や臨時工などを含め議論する歴史研究であることです。しかも,分析対象が,男性中心だと考えられ議論されてきた自動車産業であるところが特徴です。」
    「臨時的で低賃金な労働者の存在とセットで職能資格制度が成り立ってきたという事実がある」が「正社員のところだけで議論を理念化してしまうので,そのような諸制度が一体何に支えられ成り立っているのかという視点が弱まった議論になりやすいと思います。吉田先生のご研究はその視点を忘れずに盛り込んでいるというのが新しいと思います。しかも,その問題意識は,たとえばジェンダーの視点がある人は多く持っていますが,ジェンダー視角を主要な関心とされていない吉田先生が「自然に」盛り込んでおられる点は,すごく心強く読ませていただきました。いわゆる女性労働問題研究というのは,私の所属する社会政策学会でも伝統がありますが,そこの議論と一般的な労働問題研究の橋渡しがなかなかうまくいかないなかで,意義があると思います。」

  5. 久本憲夫先生(京都橘大学教授)
    『大原社会問題研究所雑誌』第798号 2025年
    「本書は,著者と当事者たちとの長年にわたる交流の中から生み出された,深い聞き取りをもとにした成果を,現代的問題意識から論じた第一級の研究書である。」
    「本書は第二次世界大戦直後の労働組合運動のリアリティを詳細に描くことに成功している。本書がこの分野の基本文献として今後長く読み継がれることは間違いない。」

  6. 市原博先生(独協大学教授)
    『立命館大学アジア・日本研究学術年報』6号 20025年
    「本書の扱った戦後初期は、経営側の労働者統轄力の弱体化から生産遂行に果たした組合の役割が大きく、その規制力が強大であったという時代的特徴が本書の分析を生み出したことは確かである。しかし、現実の労働環境の悪化の中で、労働組合に寄せる人々の目線にも変化が生じている。そうした時代状 況を反映して、本書が労働の歴史研究の新たなページを開く、そんな予感がしている。」
    「本書では、日本的雇用の形成について、もう一つ重要な提起がなされている。」…「GHQ の指導によりこの時期の人員整理の客観的基準として米国の先任権制度の導入が図られ、人員整理の消極的基準の一つとして勤続年数の長短が位置付けられるようになり、それがその数年後の「終身雇用」「企業封鎖性」「年功」の発見につながったと主張される。この主張は一見突飛な印象を受けるが、日本企業が人事・労務管理を形成する際、その担当者たちは欧米、特にアメリカのそれを詳しく検討し、そのエッセンスを導入していた。日本企業の特徴とされる企業内福祉も労使協議制も、アメリカ企業のそれをモデルとしたものであった。著者の主張は、日本的雇用の国際的契機の探究というグローバル労働史につながるものと言えるだろう。」

  7. 兵頭淳史先生(専修大学教授)
    社会政策学会第151回大会書評分科会 20025年10月25日 レジュメより
    「「日本的雇用慣行」あるいは「日本的労使関係」等と呼ばれるシステムが、戦前来の長い伝統や労働市場の構造ではなく、戦後初期の組織化、1948年にかけての労働運動の高揚、ドッジ・ライン下の経営攻勢、そして50年代の職場闘争、といった各段階において政治経済情勢を背景とした特徴をもつ、労使間・労働者集団内の相互行為によって形成された、という認識枠組みに基づく研究を、膨大な史料の丹念な分析を通じた重厚な事実発見の積み重ねによって、これまでにない高い水準にまで到達させた。最大級の評価が与えられるべき、今後、現代日本の労使関係研究者が必ず参照しなければならない金字塔。」

  8. 禹宗杬先生(法政大学教授)
    『社会経済史学』91巻3号
    「1つの企業を対象とし、それも1945年から1953年までの8年足らずの期間に絞った事例研究なのに、本文だけで350頁に達する労作である。これには理由がある。1つは、実証の緻密さによる。…中略… 2つは取り扱うトッピクの幅広さによる。筆者は、単に1つの事例を分析するにとどまらず、日本の全体を射程に入れながら、「戦後直後の労働組合の活動を日本的雇用の形成との関係において検討すること」を本書の課題として設定しているのである。…中略… 狭義の日本的雇用については多くの先行研究があるが、綿密さに欠ける点があり、広義の日本的雇用については先行研究自体が十分でない。よって、両者について日産の労使関係を事例に検討する、というのが著者の意気込みであり、それが密度の濃く分量の多い本書に結実したといえよう。」
    「本書は、日産の労働組合の方針が一枚岩ではなく、現場労働者の利害や意識を触媒材としながら、時間とともに変化していったことを見事に描いているのである。」
    「女性が職場から追い出される様態をリアルに描いたことは、本書の貢献の一つといえよう。」
    「当時の臨時工、今で言う非正規が、労働市場や人事労務管理に規定されるだけでなく、労使関係のあり方によって大きく影響を受けることがよくわかる。すなわち、「組合員という資格と、今日的な意味での正社員という身分とが強く関係」しているのあり、このような関連性を説得力のある形で提起してくれたのは、本書の大きな貢献の一つといえよう。」

  9. 呉学殊先生(特任JILPT研究員)
    『日本労働社会学会年報』36号
    「本書は、著者が約10年間にわたって進めてきた戦後初期日産労使関係研究の成果である。既存研究の成果や盲点を踏まえて、労使関係の核となるテーマを取り上げて、貴重な原資料の発掘と当事者たちの生の声に基づいて分析した優れた研究書である。本書の意義は、第1に、戦後初期日産労使関係を生々しく蘇らせたことである。工員と社員による混合組合の結成背景、生産復興路線における組合内部の動きと会社の対応、組合運動の重要性と限界などを見事に再現した。第2に、労働組合の可能性を示したことである。臨時工の本工化、転換嘱託の撤廃などから、組合が当事者の声を踏まえるとともに非正規のままにすると最終的に組合員に不利益が及ぶことを看破し、平等観に基づき問題解決を図ったことである。その道のりは決して平坦ではなかった。著書がいうように、組合は、会社との間に協調的姿勢(蜜月関係)と対立的姿勢(緊張関係)を振り子のように揺れ動きながら、また時としてはその振れ幅を大きくしながら、決定的に敵対的な関係とすることを避け、会社あっての労働組合という姿勢を堅持した運動であった。」

2025年10月26日追記
2025年9月13日作成